青森地方裁判所 昭和33年(行モ)1号 決定 1958年9月16日
申立人 三浦藤一 外一一名
被申立人 青森県選挙管理委員会
主文
申立人らの申立を却下する。
申立費用は、申立人らの負担とする。
理由
第一申立人らの求める裁判
青森地方裁判所昭和三二年(行)第一五号裁決取消事件の判決確定にいたるまで、
(一) 申立人三浦は、昭和三一年一一月二二日執行された五所川原堰土地改良区総代選挙における第一選挙区の選挙の効力に関する訴願(訴願人小田桐惣十郎)について被申立人が昭和三二年六月二〇日なした裁決の効力を仮に停止するとの裁判を、
(二) 申立人小笠原、外崎、高橋(市太郎)、山川および藤森は、右選挙における第二ないし第五および第九選挙区の選挙の効力に関する訴願(訴願人山形兼四郎、舘山藤三郎、高橋与助、原清司および奈良岡弥次右衛門)について被申立人が前同日なした裁決の効力を仮に停止するとの裁判を、
(三) 申立人藤田および鹿内は、右選挙における第六および第七選挙区の選挙の効力に関する訴願(訴願人藤田進および平山千代吉)について被申立人が前同日なした裁決の効力を仮に停止するとの裁判を、
(四) 申立人成田、開米および高橋(文治)は、右選挙における第八、第一〇および第一一選挙区の選挙の効力に関する訴願(訴願人木村賢十郎、開米佐太郎および佐藤勇)について被申立人が前同日なした裁決の効力を仮に停止するとの裁判を、
(五) 申立人野呂は、右選挙における第一二選挙区の選挙の効力に関する訴願(訴願人葛西治)について被申立人が前同日なした裁決の効力を仮に停止するとの裁判を
求める。
第二申立の理由
(一) 五所川原堰土地改良区(以下「改良区」という。)の総代の選挙に関しては、定款第九条により別表第一のとおり第一区から第一二区までの選挙区が設けられている。
(二) 昭和三一年一一月二二日執行された改良区総代選挙は、土地改良法施行令第五条により五所川原市選挙管理委員会がこれを管理し、申立人三浦は第一選挙区の、同小笠原は第二選挙区の、同外崎は第三選挙区の、同高橋(市)は第四選挙区の、同山川は第五選挙区の、同藤田は第六選挙区の、同鹿内は第七選挙区の、同成田は第八選挙区の、同藤森は第九選挙区の、同開米は第一〇選挙区の、同高橋(文)は第一一選挙区の、同野呂は第一二選挙区の選挙人である。
(三) また、申立外小田桐惣十郎は同じく第一選挙区の、同山形兼四郎は第二選挙区の、同舘山藤三郎は第三選挙区の、同高橋与助は第四選挙区の、同原清司は第五選挙区の、同藤田進は第六選挙区の、同平山千代吉は第七選挙区の、同木村賢十郎は第八選挙区の、同奈良岡弥次右衛門は第九選挙区の、同開米佐太郎は第一〇選挙区の、同佐藤勇は第一一選挙区の、同葛西治は第一二選挙区の選挙人であるところ、前記選挙につき選挙の規定に違反があつたとして昭和三一年一二月四日各別に前記選挙管理委員会に異議を申し立て、これに対し同三二年一月一〇日各棄却の決定がなされた。そこで、右申立外人らは、同年二月九日各別に被申立人に訴願し、被申立人は、右訴願の一部を合併して審査し、同年六月二〇日前記第一(一)ないし(五)記載の五件の裁決を与えた。右裁決によつて前記異議棄却決定が全部取り消され、本件第一ないし第一二選挙区における選挙が全部無効とされたのである。
(四) 右五件の裁決を通じ選挙を無効とする理由は次のとおりである。
(1) 本件選挙には一二個の選挙区があるにもかかわらず、五所川原市選挙管理委員会は五カ所の投票所および一カ所の選挙会場を設けたのみで選挙を執行し、その結果、一二名の選挙長を選任すべきであるのに一名しか選任せず、各選挙区ごとに選挙立会人二名ないし四名を選任すべきであるのに全選挙区を通じて三名しか選任していない。
(2) 本件選挙においては、選挙立会人が投票にも立ち会うのが建前であるにもかかわらず、右五ケ所の投票所において別個に投票立会人を選任したために、選挙立会人としては無権限の者を選任したことになる。また、その結果、選挙立会人には当該選挙区所属の選挙人をもつて充てるべきであるのに、他の選挙区所属の選挙人の中から選任した。
(3) 一二名の投票管理者を選任すべきであるのに五名しか選任せず、各選挙区における投票立会人も法定数を欠いている。
(4) 選挙会場は、選挙長が告示すべきであるのに、選挙管理委員会がこれを告示した。
(5) 以上のような違法は、選挙の結果に異動をおよぼす恐れがあるものである。
(五) しかしながら、本件選挙には次にのべるとおりの理由で被申立人の指摘するような違法は存在しない。
(1) 本件選挙においては、一二個の選挙区ごとに選挙が行われ、各選挙区について当選人が決定せられているのであり、何ら一二個の選挙区を合併して五個となしたというものではない。たんに数個の選挙区の投票場が同一場所に定められたにすぎないのである。しかも、右投票場における投票は各選挙区ごとに用紙を異にし混同を生ずる恐れが全くない。土地改良法施行令によるも投票場は当該選挙区内に設けなければならないとの定はなく、選挙権の行使に支障のない場所に設ければ足りると解せられる。そして、本件の場合には合併前の旧町村の区域内に一カ所ずつ投票所が設けられたから投票をなすにつき何らの不便がない。
(2) また、選挙会場についていえば、一二個の選挙区の選挙会場が同一の場所に指定せられ、右選挙会場において各選挙区の当選者が決定されたものであつて、決して全選挙区の投票を混じ全選挙区を通じ当選者を決定したものではない。選挙会場は必ず当該選挙区の区域内に設けなければならないとの規定はないから、右のような措置も何等違法ではない。
(3) そして、右のように数個の選挙区の投票場が同一の場所に設けられた場合、同一の選挙長、選挙立会人および投票立会人が関係各選挙区の選挙長、投票立会人等を兼任することを妨げられる理由はない。けだし、選挙長は選挙権を有する者の中から投票立会人、選挙立会人は選挙人名簿に登載されている者の中から選任すれば足りるのであつて、他の選挙区に属する者の選任を禁じた規定は存しないからである。
(4) 選挙立会人が投票立会人と同一人でなければならないという理由はない。
(5) 選挙会場の告示は選挙長がこれをなすべしとの規定は、必ずしもその上級庁たる選挙管理委員会が右告示をなす権限を排除したものとも解されない。けだし、選挙管理委員会は本件選挙について全般にわたり管理の権限を有するもので、通常の場合選挙長に選挙会場を指定する権限を委ねているにすぎないのであるから、この権限を自ら行使したとしてもこれをもつて違法とするには当らないからである。
(六) 以上のようなしだいで、被申立人のした前記各裁決は違法であつて取消をまぬがれないから、申立人らは、青森地方裁判所にその取消請求訴訟(同庁昭和三二年(行)第一五号事件)を提起したのであるが、改良区においては右裁決により本件選挙によつて当選した総代がその地位を失つたものと解し、申立人ら(申立人らのうち山川、開米および野呂を除く九名は本件選挙による当選人である。)には総代会招集の通知を発せずかえつて任期満了した旧総代にその通知を発し重要案件を審議しつつあり、かくては、申立人らは償うことのできない損害をこうむるといわなければならない。
(七) よつて、本案判決確定にいたるまで、被申立人のした前記各裁決の効力を仮に停止する旨の裁判を求める。
第三被申立人の意見
(一) 主文第一項同旨の裁判を求める。
(二) 申立人ら主張の(一)ないし(四)の事実は争わない。
(三) 申立人らの主張(五)の(1)について
本件選挙においては、第一区から第一二区までの選挙区が設けられているのであるから、各選挙区ごとに選挙会場を設けるべきであるにかかわらず、五所川原市選挙管理委員会は、右選挙区を合併して五投票区とし各投票区に投票所を設け、選挙会場は一カ所を設けたにすぎない。土地改良法施行令は、投票区を設置しうることを認めているが、右は、選挙区の区域が広大であるか所属選挙人が多いため選挙人に不便を与えるようなときに当該選挙区の区域を投票区に分ちうるとしたものであつて、これと反対に選挙区を合併して投票区とすることを許したものではない。本件選挙においては、当選人と次点者との差は僅か一、二票にすぎないから、右施行令の定めるとおり選挙区ごとに選挙会場が設けられ投票が行われたとしたならば、異なる結果が出たであろうことはみやすいところである。従つて、右の違法は選挙の結果に重大な影響を及ぼしたものといわなければならない。
(四) 申立人らの主張(五)の(2)について
申立人らは、一二個の選挙区の選挙会場が同一の場所に指定されたものであると主張するが、選挙会場は、選挙区ごとに設けるべきものであつて一二の選挙会場を一カ所にまとめるというがごときことは到底許さるべきことではない。本件選挙においては、第一区から第一二区までの選挙会場を一カ所に定め、選挙長一名、選挙立会人三名で選挙会を開いたものであるから違法なること論をまたない。
(五) 申立人らの主張(五)の(3)について
申立人らは、選挙長、選挙立会人、投票立会人等は他の選挙区所属の選挙人の中から選任してもさしつかえないと主張するが、選挙人はその所属の選挙区の区域内においてのみその権利を行使しうるものであるから、申立人らの主張は失当である。そうしてみると、本件選挙における選挙長、選挙立会人、投票管理者、投票立会人等は自己の属せざる選挙区に関しその地位にあつたことになり、かかる無資格者の管理の下になされた選挙が無効であることはいうまでもない。
(六) 申立人らの主張(五)の(4)について
土地改良法施行令によれば、土地改良区総代選挙は公職選挙法における選挙と異なり投票、開票、選挙会の区分がなく、各選挙区の選挙長および選挙立会人等が同一人をもつて投票から開票ないし当選人の決定までなさなければならないものである。しかるに、本件選挙においては選挙長と別に投票管理者を、選挙立会人と別に投票立会人を選任しているのであつて、その違法であることは明らかである。
(七) 申立人らの主張(五)の(5)について
選挙会場の告示は、選挙長がこれを行うべきことは土地改良法施行令に明定するところであり、他の者がこれを行つたとしても効力がないことはいうまでもない。
(八) 以上のべたとおり申立人らの主張は理由がなく、被申立人のした裁決は何ら違法のかどがない。仮に、被申立人の主張が失当であるとしても、本件申立が認容されるにおいては、改良区の機能は停止し排水施設管理上にも重大な障害を生じ組合員が不測の損害をこうむる恐れがあり、公共の福祉に重大な影響を及ぼすことなしとしない。
(九) よつて、本件申立は却下せらるべきである。
第四疎明
(一) 申立人らは、甲第一号証の一ないし一二、同第二号証、同第三号証の一ないし五を提出した。
(二) 被申立人は、乙第一なしい第五号証を提出した。
第五当裁判所の判断
(一) 申立人ら主張の(一)ないし(四)の事実および申立人らが被申立人のなした裁決の取消を求めて当庁に裁決取消の訴訟を提起したことは当事者間に争がない。
(二) 申立人らが、右裁決取消訴訟(ならびに本件行政処分執行停止命令申請)を本件総代選挙の選挙人たる地位に基いて提起しているのであることはその主張自体から明白であるが、当裁判所は右訴は却下をまぬかれないものであり、従つて、本件執行停止命令申請もまた許すべからざるものであると考える。けだし、申立人らは選挙人たる地位においては被申立人のした裁決により何らその権利ないし法律上の利益を害されるものではないから、結局右訴は選挙の公正をはかるため被申立人のした法の適用の誤を是正することを所期するものであると考えられるが、かかる訴は本来裁判所法第三条にいう法律上の争訟に該当せず、法律の規定をまつてはじめて許されるものと解すべきところ、土地改良法および同法施行令は選挙人に対し異議申立および訴願を認めたにとどまり出訴を認める何らの規定をもおいていないからである。
よつて、本件申立は却下をまぬかれないものである。
(三) しかしながら、申立人らのうち山川、開米および野呂を除く九名は本件選挙による当選人であることはその主張するところであり、右事実は甲第二号証によつて疎明されるから、右九名が当選人たる資格において本件申立をなすものとして、本件選挙の効力に関する当裁判所の判断を念のため示しておくこととする。
(四) まず、本件選挙がいかなる経過で執行されたかを検討するに、甲第一号証の一ないし一二、同第二号証に当庁昭和三二年(行)第一五号事件において申立人ら(同事件の原告)が提出した書証(甲第一ないし第一五号証)を総合すれば次のような事実が認められる。
(1) 本件選挙にあたり、五所川原市選挙管理委員会は、選挙長として三浦藤一を、選挙立会人として松本政五郎、平山弥一郎、開米民雄および舘山虎雄を選任し、昭和三一年一一月一七日本件選挙における開票の事務を選挙会の事務にあわせて行うものとする旨告示した。
(2) 同委員会は右同日本件選挙における管理者および立会人として別表第二記載のとおり選任して告示した。
(3) 同委員会は、ついで、同月二〇日、本件選挙における開票の場所を五所川原市役所会議室、日時を同月二二日午後五時からと定めて告示した。
(4) かくして、同月二二日本件選挙が行われたのであるが、投票所は、いわゆる五所川原投票区(第一選挙区)については五所川原公民舘、いわゆる中川投票区(第二、三、四、五、九選挙区)については中川中学校、いわゆる栄投票区(第六、七選挙区)については栄小学校、いわゆる三好投票区(第八、一〇、一一選挙区)については鶴ケ岡中学校、いわゆる松島投票区(第一二選挙区)については桃崎稲荷神社に、それぞれ設けられた。
右投票にあたり、いわゆる投票管理者および投票立会人として別表第二備考らん下部に〇印を附した者が出席した。
(5) 投票終了後、投票箱は五所川原市役所に集められ、同所において選挙会が開かれ、前記選挙長および選挙立会人が出席し、一二個の選挙区ごとに当選人が定められた。
以上の事実が認められる。
(五) 被申立人は、まず、本件選挙において、第一区から第一二区まで一二個の選挙区があるにかかわらず、これを適宜合併して五投票区として各投票区に投票所を設けたのは違法であると主張する。よつて、検討するに土地改良法施行令の規定によれば、土地改良区総代選挙において選挙区がある場合には各選挙区ごとに選挙会場が設けられ、その選挙会場において投票、開票および選挙会が開かれるものであることが明かである。そして選挙会場が、特段の事情のない限り(本件においてかかる事情の存在は認められない。)選挙区の区域内に設けられるべきであることは明文はないが右施行令の精神に照し言をまたないところである。されば、本件選挙においても、本来各選挙区に一カ所ずつ、合計一二の選挙会場が設けられ、その会場において投票がなされるべきであつたのである。しかるに、前記認定によれば、選挙管理委員会は、一二個の選挙区を区分しなおして五投票区に合併し各投票区に投票所を設けたのであるが、元来投票区は投票の便宜上選挙区を更に細分して設置されるものであるから右は全く見当はずれの違法な処置であるというほかはない。(仮に右のような投票区が改良区規約により設置してあり、本件選挙が右規約の規定により行われたものであるとしても、かかる投票区の設置は土地改良法施行令の趣旨に違反し何らの効力を有しないから、結論は同一である。)そして右違法な処置により全選挙区を通じて投票の場所が半数以下に減ぜられたことになるから、正当に選挙会場が設けられた場合に比し棄権その他による投票数の減少があつたであろうことは容易に考えうることである。そして甲第二号証により疎明されるように本件選挙における当選人と次点者との得票の差は最高六票多くは一、二票であるから、右の違法は選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるといわざるをえない。申立人らは、本件選挙においては、数個の選挙区の投票場が同一場所に定められたにすぎず、しかも旧町村の区域内に一カ所ずつ投票場が設けられたから選挙人の投票に支障がないと主張するが、その採るべからざることは上記のところから自ら明らかである。
(六) 次に、被申立人は、本件選挙において選挙長と別に投票管理者を、選挙立会人と別に投票立会人を選任しているのは違法であると主張する。よつて、検討するに、さきに一言したように、土地改良区総代選挙においては、選挙長は、当該選挙会の事務を担任し、選挙立会人は選挙会に立ち会い、投票から当選人の決定にいたる事務を執行するものである。しかるに前認定によれば、本件選挙においては、別表第二記載のとおり選挙長と別に投票管理者が、選挙立会人と別に投票立会人が選任され、投票に関する事務を担任し、あるいは、投票に立ち会つたのである。(ただし、三浦藤一は、いわゆる五所川原投票区の投票管理者であり、開米民雄は、いわゆる三好投票区の投票立会人であつた。)しかも、右投票管理者および投票立会人のおかれたいわゆる投票区なるものは前述のように選挙管理委員会があやまつて設置した無効のものであり(本件選挙において適式の投票区の存在しないことは改良区規約により明白である。)、従つて右投票管理者および投票立会人は本件選挙につき何らの権限をも有しない者であつたのである。されば本件選挙においては、全選挙区を通じ何らの資格なき者が投票に関する事務を担任し、また、投票に立ち会つたものであるというほかはない。さすれば、本件選挙における全投票は無効であり、右は選挙の結果に異動を及ぼすものといわなければならない。
(七) 以上述べたところからして、被申立人主張のその余の無効原因について論ずるまでもなく、本件選挙は全部無効というべきであるから、これと同趣旨に出た被申立人の裁決は全部相当であつて何らの違法もない。してみると右裁決の取り消さるべきことの疎明がないから、これを前提とする本件申立は失当といわざるをえないのである。
(八) よつて、申立費用は、申立人らの負担とし、主文のとおり決定する。
(裁判官 飯沢源助 宮本聖司 中園勝人)
(別表省略)